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認知症と家族信託
~親なきあとを支える福祉型信託~

 高齢に伴って認知症の罹患者が増加してきます。この病気の特徴の一つは、ほぼ回復が望めないということです(全く回復の事例が無いわけではありません)。認知症に罹患した後、本人や家族を支える制度が以下の3つです。

成年後見制度

認知症の初期では、家族がそばで支援できますが、症状が進行してくると家族では支援が難しくなります。そのような時に利用できる制度が成年後見制度です。詳しくはコチラのページをご覧ください。

福祉施設入所

認知症高齢者の日常生活自立度という指標があります。要介護認定もこの指標を基に申請されますので、認知症の方も介護施設の利用ができます。また、グループホームで数人の共同生活を送るというパターンもあります。体験入所も行っていますので、関係団体へ問い合わせてみてください。

家族信託制度

認知症に罹患した人は、判断力が衰えまたは欠乏した方で、上記の福祉施設や成年後見人が本人を守ることになりますが、認知症になった方の財産は凍結状態になってしまいます。これによって家族の生活が立ち行かなくなる場合が少なくありません。そこで2007年に施行された民事信託という制度で、どのように家族の暮らしを守るのかを、このページで、紹介します。

●認知症と家族

 認知症になった場合は、銀行口座の預金は家族でも下ろすことができなくなります。また、所有する自宅、土地なども本人が判断できないので処分ができなくなります。この事実は家族の誰かが認知症になって初めて知る方が殆どです。(こういう指導をする人がいなかったのです。)
 認知症になった本人を守る成年後見制度はありますが、残された家族の生活を守れる制度が長い間ありませんでした。つまり父の財産で生活してきた家族が、突然生活ができない状態になるわけです。成年後見人は本人のための支出はしますが、奥様や家族のための支出は積極的ではありません。以下、2007年に施行された「改正信託法」の内容を事例にそって分かりやすく解説します。


《事例》

  • 父は、自分が認知症になったら財産管理はどうしたらいいだろうと悩んでいました。
  • いろいろ調べていくと、認知症になってしまった場合、自分の医療費や入所費用に充てるよう準備している定期預金は、妻でも解約できなくなる。また所有する不動産を売却することもできなくなるという事が分かりました。
  • そこで、家族信託の制度を使って、①自分の医療費、入所費用、その他の費用と、②妻の生活費や医療費、入所費用などに必要になるであろうと思われる金銭を娘に預かってもらって、必要な時に支出してもらうよう頼むことにしました。
  • 自分の望みが確実に実行されるように、信託契約書を専門家に作成してもらい、さらに公正証書にして自分と娘が保管するようにしました。

 以下の図は家族信託を理解していただくために簡単に家族関係図にしたものです。図の説明をします。

  • 父:委託者 財産の管理をお願いする人
  • 娘:受託者 財産管理をお願いされた人
  • 母:受益者 預けた財産から利益を受取る人
  • 信託財産 父から娘に管理をお願いする財産。贈与とは違い贈与税の課税はありません。また、父の所有する財産とは切り分けられますので、父が亡くなっても相続財産にはなりません。
  • 信託事務 父と娘で締結した「信託契約書」の内容に沿って、管理している財産から支出したり、各種届出や手続きを行う事。

 上の図では受益者に父(第1受益者)が入っています。また、母(第2受益者)も入っています。このように受益者を複数設定することができ、父が亡くなった後もこの制度は継続できるというのが大きな特徴の一つです。家族信託を利用することで、父が認知症になっても、父の財産が凍結されても家族の生活はこれまで通り維持・継続できることになります。

 税金関係ですが、父が受け取る(支払いを受ける)金銭等は、もともと自分の財産ですので課税はありません。父に続き母が受け取る金銭等については贈与の扱いになりますので、贈与税が課税されることになります。詳しくはご相談ください。

●親なきあと支援の福祉型信託

 もしもこの家族に障害を持つ子がいた場合は、親は自分の健康状態や認知症のことも心配ですが、おそらく夫婦の死後の子の暮らしへの心配が切実な悩みになるのではないでしょうか。よく「親なきあと問題」と言われます。

 障害の程度によっては施設入所が必須という場合もあると思いますが、日常生活は多少の助けがあれば大丈夫だが、金銭管理については、人に騙されたり浪費したりとかが心配で、無理だろう。という場合は、家族信託から発展させて「福祉型信託」を契約しておくという事が有効になります。

《事例》

  • 父は自分が認知症になった後のことや、亡くなった後のこと、とりわけ障がいのある息子の生活が心配でなりませんでした。息子は、日常生活はできるものの、財産管理は無理だろうと考えています。
  • そこで、娘に自分の財産の一部を預けて、自分が認知症なったら自分の医療費や入所費用ほかを支出してもらい、自分の死後は妻に生活費、入院、入所費用などを支出、そして妻が認知症になったり亡くなったりした後は、息子に生活費やその他必要な費用として毎月10万円ずつ支出して息子の生活を守ってもらうように頼みました。
  • さらに、息子が亡くなった後に残った財産は娘に受け取ってもらう事にしました。

 上の事例では、父が最も心配している息子の生活を守るために、福祉型信託を利用した例です。もしも父が何も手を打たずに亡くなってしまった場合は、父の所有財産は相続財産ですから、まとまった財産が息子の所有物になります。その後、息子が財産管理をしながら安全に暮らしていけるかどうか、不安が残ります。

 そこで、福祉型信託で自分の死後も、自分の望む財産の処分ができるように設定し、さらに最終の残余財産についても、娘に受け取ってもらうとしたことで、娘も理解しやすくなった事例となりました。

 家族信託、福祉型信託とも財産管理をお願いする人は、家族以外に甥や姪など信頼できる人であれば誰でも指定できます。


 この二つの事例では「父」が自分と家族の将来を考えて、家族信託や福祉型信託を利用しようと考えています。ほかにもこの制度を利用して「相続対策信託」「事業承継対策信託」「ペット信託」などと分かりやすくネーミングされた○○信託があります。これらを総称して民事信託と言います。

 しかし、口約束だけでは制度の仕組みを利用したとは言えません。信託期間は数年から数十年続く契約ですので、信託期間中に思いがけないトラブルが出てくる場合があります。そのため、父の希望する財産管理が、父が亡くなった後も長期間にわたって確実に機能するよう、いくつかの守らなくてはならない決まりごと(信託法)があります。家族信託を利用するには民事信託コーディネーター®と呼ばれる専門家や司法書士、弁護士などに依頼し、「信託契約書」という公正証書を作成し、また信託契約を第三者が見守る仕組みも併せて活用するようにします。

●家族信託契約の流れ

 上図で説明します。最初に皆さんからのご相談を受けます。内容によっては福祉型信託ではなく、別な制度の利用が良い場合もありますので、事情や現状、家族関係など何でもお話いただきます。

 次に相談事の解決方法として、福祉型信託でどのように設定するかを説明し、併せて費用面の説明も行います。相談者から福祉型信託の利用の了承を頂いた場合、相談者と家族皆さんに集まっていただき、福祉型信託の利用による財産管理や処分について家族の皆さんの理解と協力をお願いします。家族全員の理解を得ることはに非常に大事な作業です。

 家族の了解が得られた後は、「信託契約書」の原案を作成、提示します。その後公正証書の作成、そして相談者が託す信託財産を、分別管理するための作業を受託者が行います。当相談所も手続をサポートします。また、信託財産の中に不動産がある場合は、法務局への登記もおこないます。

 これ以降は受託者が、信託契約内容に沿って行動していただきます。これを受託者が行う「信託事務」といいます。前述のように信託は長い期間にわたって機能しますので、想定外のことがあったり、トラブルなどもあるかもしれません。ご家族から連絡を頂ければ、いつでも当相談所で継続してサポートいたします。

◎民事信託問合せ専用のメールを用意しました。


(文責:民事信託コーディネーター®|ファイナンシャルプランナー藏本光喜)