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民事信託と認知症
~親なきあとを支える福祉型信託~

 認知症に罹患する高齢者は、年々増加傾向にあることはご存じの方も多いと思います。将来の推計値は若干の誤差もあると思いますが、総務省の統計局及び高齢社会白書によると、今後の認知症罹患者数は以下のように推計されています。

 推計によれば10年後には認知症患者数が800万人を超え、さらに増加するだろうとされています。ここからは、認知症に罹患したことにより、どのような問題が発生し、現在はどのような対策が講じられているのか、そして民事信託の活用によってどのようなことを解決できるのかを見ていきます。


認知症罹患による生活への影響

 認知症を発症し症状が進んでいくと、家族が身の回りの世話をしようにも、それにはおのずと限界があります。以下、認知症罹患者にみられる症状を挙げますので、認知症罹患者のご家族の介護の大変さを想像してみてください。

  • ランクⅠ
  • 何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している。
  • ランクⅡ
  • 日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思個通の困難さが多少みられても、誰かが注意していれば自立できる。→たびたび道に迷うとか、買い物や事務、金銭管理などそれまでできたことにミスが目立つ。→服薬管理ができない。電話の対応や訪問者との対応など一人で留守番ができない。
  • ランクⅢ
  • 日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さがみられ、介護を必要とする。→日中を中心として上記の症状がみられる。着替え、食事、排便、排尿が上手にできない。時間がかかる。やたら物を口に入れる。物を拾い集める。徘徊、失禁、大声、奇声をあげる。火の不始末、不潔行為、性的異常行為等。→夜間を中心として上記の状態が見られる。
  • ランクⅣ
  • 日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁にっみられ、常に介護を必要とする。 ※常に目を離すことができない状態である。症状・行動はランクⅢと同じであるが、頻度の違いにより区分される。
  • ランクМ
  • 著しい精神症状や周辺症状あるいは重篤な身体疾患がみられ、専門医療を必要とする。 ※せん妄、妄想、興奮、自傷・他害などの精神症状や精神症状に起因する問題行動が継続する状態等。

○ 認知症罹患者への行動制限

認知症罹患者にみられる上記の症状から、以下のような行動制限が行われます。

  • ① 所有する財産の凍結
  • ② 一切の契約行為の禁止

 なぜこのような行動制限が課されるのかというと、認知症罹患者が悪意のある人から財産をだまし取られたり、高額な商品を売りつけられたりすることを防止する「権利擁護」の観点からなされているのです。一方ではこれにより、ご家族の生活はそれまでと一変してしまいかねません。

実際にあった
ご主人が認知症になった途端、本人の介護施設入所に必要な費用を準備しようと、銀行で定期預金を解約しようとしたら断られ、本人所有の貸家を売却しようとしたところ、不動産屋さんから「本人に判断能力がないので、処分できません」と断られてしまい、これまで本人の年金で暮らしてきた生活さえも、立ち行かなくなってしまった。という例がありました。

 このような状況への対応としては、認知症罹患者の介護施設への入所。また認知症罹患者への成年後見人の選任による財産管理と身上監護。というところですが、本人の財産から、認知症に罹患しても凍結されない財産を、切り分けて管理しておくことができれば、本人と家族の生活や医療費、介護費用が確保できることになります。これを可能にするのが民事信託です。


民事信託の活用で資産凍結を回避

 認知症になった場合に、本人の資産が凍結されることによって、家族が身の回りの世話をしようとしても、費用が準備できない。施設に入れようとしても入所費用が準備できない。といった状態を回避するには、民事信託の利用が最適と思われます。


 民事信託スキーム(概略図)

 上の図の説明をします。3人家族の父は、認知症による自分の財産が凍結されたときでも、自分や妻の医療費、入所費用などに必要と思われる財産を、息子に管理をお願いして預けました。その後、父が認知症や病気になり費用が必要になったときは、息子の預かっている財産から支出してもらうようにしました。自分が亡くなった後も、母が同様の費用が必要になったときは息子が預かった財産から支出するようにしました。これが民事信託の基本的なスキームです。続いて特徴を説明します。

  • 父が息子に預けた財産(信託財産といいます)は所有権が息子に変わりますが、贈与税がかかることはありません。
  • 父が亡くなったときには、信託された財産は、父の相続財産とはならず、父の希望通りに母親のために支出されるようになります。
  • 父と息子が契約(信託契約といいます)に、残余財産の帰属先を決めておくと、残った財産の行く先を決めておくことができます。
  • 信託法の規定に定める方法によって、契約を締結しなければいけません。(口約束だけではダメです)

 これによって、認知症を罹患した方の家族が金銭的に困ることを回避することができるようになります。この例では登場人物が家族だけですので、「家族信託」とも呼ばれます。


親なきあと支援の福祉型信託

 もしもこの家族に障害を持つ子がいた場合は、親は自分の健康状態や認知症のことも心配ですが、おそらく夫婦の死後の子の暮らしへの心配が切実な悩みになるのではないでしょうか。よく「親なきあと問題」と言われます。

 障害の程度によっては施設入所が必須という場合もあると思いますが、日常生活は多少の助けがあれば大丈夫だが、金銭管理については、人に騙されたり浪費したりとかが心配で、無理だろう。という場合は、家族信託から発展させて「福祉型信託」を契約しておくという事が有効になります。つまり、母親が亡くなった後、障がいのある子に、月々一定の金額を給付するという契約にすると、障がいのある子が生活するための費用を準備できます。民事信託の詳細についてさらに知識を深めたいという方は、いつでもご連絡ください。